2020.04.12

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    福祉事業の将来性

    福祉事業の可能性と将来性

     

    日本の人口は、既に減少に向かっています。その中で平均寿命は延びているため、老年人口は2042年まで増え続けると見込まれています。それに伴い、高齢者医療や介護などの福祉を中心とした社会保障費は現在、1年間に1兆円ずつ増えています。これが国の財政を圧迫する大きな要因となっているのですが、今後も続く少子高齢社会を前提に、何にどう取り組んでいくのかが問われています。

    特に、福祉分野については政策や事業の進め方の見直しが進むでしょう。しかし、高齢者が増えている以上、高齢者福祉の需要は拡大する一途です。介護保険事業だけで既に10兆円を超えたとみられ、福祉分野の事業規模はますます拡大していくでしょう。高齢者福祉にとどまりません。国は障害者や学童福祉にも力を入れています。福祉は国の規制で制約が多い分野ですが、現時点では誰も想定していないような新しいビジネスモデルが生まれるかもしれません。福祉事業はむしろ、これから本番を迎えると言っても過言ではないでしょう。

     

    • 日本の人口構成

    人口推計と高齢者人口の増加

    2015年の国勢調査によると、日本の総人口は約1億2,709万人(2016年10月1日現在の確定値)。前回(2010年)調査時より約96万人(0.8%)減と、終戦後を除いて初めて減少に転じました。

    将来の出生推移と死亡推移で、三つの仮定のうち中位での将来人口をみると、2040年の1億1,092万人を経て2053年には9,924万人と1億人を割り、2065年には8,808万人になると推計されています。

    一方で平均寿命はさらに伸び、65歳以上の老年人口は、2015年の3,387万人から2020年には3,619万人、2030年に3,716万人となり、2042年に3,935万人でピークを迎えます。ただし、総人口に占める老年人口の割合は、出生数の減少が続くためその後も高まり続け、2065年に38.4%に達するとみられています。実に、2.6人に1人が老年という計算になります。もっとも、これよりはるか前に、現在は65歳以上となっている老年の定義が変わっているでしょうが。

    0~14歳の年少人口をみると、2015年には1,595万人で、1980年代の6割にまで減りました。今後さらに減少が続き、2056年には1,000万人を割り、2065年には898万人になると推計されています。

    一方、障害者数は増加しており、厚生労働省の2018年3月現在の推計では、身体障害者392万人、知的障害者が74万人、精神障害者が392万人の計858万人で、人口の6.7%となっています。

     

    少子高齢化がもたらす問題点

    このような人口減少と高齢化率の上昇に伴う問題点として、次のようなことが指摘されています。

    まず、国内市場の収縮です。人口が減るうえ消費活動が活発でない老年人口が増えるわけですから当然です。今後20年間で市場の30%が失われるとの見方もあります。

    次に、労働力の不足です。15~64歳の生産年齢人口は、2015年の国勢調査では7,728万人でしたが、2040年には6,000万人を割り、2065年には4,529万人になるとみられています。

    三つめは年金制度、医療制度の破綻です。年金制度については、70歳からの支給開始を選択できるようにする検討を始めるなど、支給総額を抑えようと国は躍起になっています。今でもそうですが、年金で悠々生活などは夢のまた夢で、働ける間は自分で収入を得る算段が欠かせなくなります。医療費も75歳を超えると一気に増えるというデータがあり、国民皆保険制度の維持を懸念する声が強まっています。

    以上のような問題の結果として、税収減や若い世代の負担増も避けられません。

     

    2)福祉施策の変遷

    国の方針

    少子高齢社会の到来は何十年も前から指摘されていました。国は1988年に通称「ゴールドプラン」(長寿・福祉社会を実現するための施策の基本的考え方と目標について)を策定、「新ゴールドプラン」(1994年)や「ゴールドプラン21」(1999年)を相次いでまとめました。また、子育て支援のためには「エンゼルプラン」(1994年)、「新エンゼルプラン」(1999年)を策定して、福祉施策の方向性を打ち出しました。

    これらに基づき、福祉施策も変遷していきました。エポックメーキングな出来事を挙げれば、2000年の介護保険制度の創設、2006年の障害者自立支援法の施行と2013年の障害者総合支援法への衣替え、そして、1960年に身体障害者を対象に制定された障害者雇用促進法の、今世紀に入ってからの相次ぐ改正などでしょうか。

    国の方針がどのように変わっていったのか、順に見ていきましょう。

     

    介護保険制度―家族負担から社会全体で支える仕組みに

    介護保険制度創設の狙いは、家族が担ってきた高齢者介護を、社会保険の仕組みによって社会全体で支えるものに変えることでした。このため、40歳以上は介護保険料を徴収され、保険料と公費、そして所得により1割、2割、3割と異なる利用者負担で経費を賄うシステムになっています。

    それまでは、行政機関がサービスの必要性などを判断したうえで、市町村から委託された事業者のみが行う介護サービスを利用するという形態でした。介護保険制度では、利用者が要介護認定を受けたうえで、民間も含めたサービス事業者と契約することになりました。これにより、以前に比べて事業者間で競争原理が働くとともに、サービスの内容も豊富になりました。

    その後、数度にわたる改正で、予防重視型への転換▽医療と介護の連携強化▽在宅医療など地域支援事業の充実などが図られ、利用者負担も所得による差が設けられるようになりました。

     

    障害者総合支援法―就労支援を強化

    2006年に施行された障害者自立支援法は、身体、知的、精神の三つの障害における制度格差を解消し、精神障害者が支援費制度を利用できるようにするとともに、障害程度区分が設けられ、サービスの提供主体を市町村に一元化しました。

    国が費用の2分の1を負担することを明確にし、利用者が応分の負担をする一方で、障害者の自立を目指して、就労支援を強化したのも大きなポイントです。

    障害者総合支援法になって障害者自立支援法から変わった大きな点は、難病者が支援対象になったことに加え、支援の観点を住み慣れた地域における住まいの場の確保に据え、重度訪問介護と地域移行支援の利用対象を拡大したこと、サービス提供基盤の計画的な整備を進めることなどでした。

    また、法律名から「自立」が消えましたが、①措置から契約へ②個人の自立支援③福祉の市場化④競争原理の導入という趣旨は、総合支援法でも残っています。

     

    障害者雇用促進法―国の水増し発覚で注目される雇用拡大策

    1960年に身体障害者雇用促進法として制定され、その後、知的障害者、精神障害者が対象に加えられていきました。企業や公的機関に障害者の雇用を一定割合で義務付け、達成した民間企業には雇用調整金として、基準を1人上回るごとに月2.7万円を支給する一方、未達成企業からは1人当たり5万円(従業員101人~200人の企業は4万円)の雇用納付金を徴収することになっています(従業員が100人未満の企業はどちらも適用外)。

    2016年の改正で、障害者に対する差別の禁止や、障害者が働きやすいよう職場を改善する義務が加えられ、法定雇用率は2018年4月、一般企業で2.0%から2.2%に、国と地方公共団体などでは2.3%から2.5%にそれぞれ引き上げられました。

    ところが、驚くべき事実が明らかになりました。省庁をはじめ国のほとんどの機関で、障害者の雇用者数が大幅に水増しされていたのです。このため、国の雇用率は、それまでに発表されていた2.49%から1.19%へ半分以下にダウンし、軒並み法定雇用率未達成となってしまいました。地方自治体でも水増しが相次いで発覚しています。

    民間企業については厚生労働省が障害者雇用状況をチェックしていますが、国や地方公共団体にはチェックも、未達成の場合の納付金制度も適用されないことが、これまでウソがまかり通っていた原因と指摘されています。

    自らも水増しを行っていた厚生労働省は、障害者雇用の拡大策を打ち出すでしょう。それは国や地方公共団体にとどまらず、民間分野にも波及するとみられます。

     

    • 福祉事業の現状

     

    福祉といっても、その事業内容は実に多彩です。

    ここでは、ほとんどの高齢者にかかわる介護事業と、障害者福祉について見ていきます。

     

    増える地域密着型サービス

    厚生労働省が発表した2016年度介護保険事業状況報告によると、介護保険における第1号被保険者、つまり65歳以上は2017年3月末現在で3,440万人。前年より59万人、1.7%増えています。このうち、介護を受けられる要介護・要支援認定者数は、前年度より12万人、1.9%増えて632万人。65歳以上の18.0%でした。

    サービス受給者数は2016年度の月平均で560万人。前年度より39万人、7.4%と大幅に増えました。その内訳は、居宅サービスが69.8%、施設サービスが16.5%、地域密着型サービスが13.7%となっています。

    特筆すべきが、地域密着型サービス受給者の急増です。前年度比で88%もの大幅増となり、以前から増加傾向にあった構成比も同年度、一気に5.8ポイントも上昇しました。2015年度の介護保険法改正で、特別養護老人ホームの入居者が要介護3以上に限定され、要介護1と2の人たちが移っていったためとみられ、今後も地域密着型サービス受給者が増えるのは確実でしょう。

    各種サービス受給者の増加とともに、保険給付額も1,577億円増えて9兆9,903億円。利用者負担を除いても9兆2,290億円(いずれも予防給付を含む)にのぼっています。

     

    障害福祉サービス予算は10年間で2.4倍に

    厚生労働省が2018年度障害福祉サービス等報酬改定を審議するに際してまとめた資料によると、障害福祉サービスの利用者数は、2016年12月現在103.9万人で、前年同時期より7.4%増加。中でも、障害児が17.6%、精神障害者が8.7%の大幅な伸びを示しています。

    サービスの種類別に見た総費用額が多いのは、生活介護の6,419億円(31.7%)がトップで、就労継続支援B型が2,885億円(14.3%)、施設入所支援が1,798億円(8.9%)、居宅介護が1,513億円(7.5%)、共同生活援助(介護サービス包括型)が1,487億円(7.4%)、放課後等デイサービスが1,446億円(7.1%)などとなっています。

    一方、国の障害福祉サービス予算は、2018年度で1兆3,810億円。前年度より9.1%アップし、過去10年間で2.4倍にも達しました。

    障害者雇用の状況を見ると、2017年6月現在の雇用者数は49.6万人。14年連続過去最高を更新しました。多いのは33.3万人の身体障害者ですが、精神障害者の増加が目立ちます。民間企業の実雇用率は、これも過去最高の1.97%。半数の企業が法定雇用率を達成しています。

     

    • 福祉事業の今後と課題

     

    以上見てきたように、高齢者、障害者ともに今後も増加の一途をたどり、事業規模も拡大していくのは間違いありません。

    その中で、注目すべきは地域密着型サービスと、障害者の自立に向けた就労支援でしょう。

     

    定着する地域包括ケアシステム

    地域密着型サービスが注目されるのは、高齢者が住み慣れた地域で、医療と保健も含めて手厚い支援を受けられるようにする地域包括ケアシステムの拡充に、国が力点を置いていることに加え、障害者福祉においても、地域での生活と就労に一層力を入れる方向性を打ち出しているためです。

    地域密着型サービスとは、居宅あるいは施設で行われていた介護に地域全体で取り組もうというものです。中学校区を一つの単位とし、利用者のニーズに基づいたサービスの提供や、24時間体制でなじみの職員による継続的支援が受けられることなどを目指します。

    代表的なのは小規模多機能居宅介護ですが、グループホームや小規模なデイサービスなども含まれ、小回りが利くサービス提供を目指して、各施設・事業は小規模なものになります。

    障害者に対しても、地域包括ケアと同じ考え方で、地域移行・地域定着支援の拡充が図られています。

    地域包括ケアシステムの中核となる地域包括支援センターは着々と整備され、地域ケア会議などを通じた自立支援型ケアマネジメントの支援をはじめ、さまざまな取り組みが行われるようになっています。今後、事業の成熟とともに横の連携が強まることで、より充実したサービス拠点となることが期待されています。

     

    利用者増えるも実効性求められる就労支援

    障害者に対する就労系の福祉サービスには、就労移行支援、就労継続支援A型、同B型、就労定着支援があります。就労移行支援では、一般企業への就職を目指す障害者に、必要な知識や技術を身に着けてもらうとともに、就職先のあっせんまで行います。

    就労継続支援は、一般企業への就職が難しい障害者に就労や生産活動の機会を提供するとともに、一般就労に必要な知識や能力が高まった障害者には、一般就労への移行に向けて支援する通所サービスです。雇用契約を結ぶのがA型、結ばないのがB型です。

    就労定着支援は2018年に創設されたサービスで、一般就労に移行した障害者について、事業所や家族との連絡調整などの支援を最大3年間行うものです。

    各サービスの利用者は2018年3月現在、就労移行支援が3.3万人、就労継続支援A型が6.9万人、同B型が24.0万人。2011年に比べると、就労移行支援と就労継続支援B型が約2倍に、同A型が5倍以上に増えています。また、就労系障害福祉サービスから一般就労への移行も増え続け、2017年は1万4,845人で、サービスが始まった2006年の6倍になりました。

    とはいえ、就労移行支援事業所のうち一般企業への移行実績がゼロというところが35%もあり、ハローワークを通じた就職件数が圧倒的に多いのが実情です。また、就労継続支援B型事業所では、国の工賃倍増計画や工賃向上計画にもかかわらず、安い工賃設定しかできないところが多く、一般企業との連携強化と仕事量の拡大・効率化、質の向上などが求められています。

     

    最大の課題は人手不足

    福祉事業所に共通した悩みは、人手不足です。介護労働安定センターの2017年度の実態調査によると、介護施設の66.6%が人手不足を訴えています。背景にあるのは低賃金です。介護労働者の平均賃金は月額22.7万円(管理職を除く)と、全産業平均の30.4万円と比べて大きな隔たりがあります。

    一方で、離職率は決して高くはなく、介護労働者の54%が今の仕事を続けたいと回答しています。介護に限らず福祉の分野で働く人たちがやりがいを感じているだけに、賃金面でどのように応えていくかが最大の政策課題と言えそうです。

    同時に指摘しておかなければならないのが、事業者側の成長・成熟です。介護や障害者福祉の分野は、制度や法律がしばしば変わり、それに伴って新しいサービスや事業所が誕生するという動きを繰り返してきました。それだけに、業界全体でまだまだ手探りといった状態が続いています。福祉を魅力があって働きやすい分野にするための取り組みが、事業者側にも求められています。

    それを裏付けるように思われるのが倒産の増加です。東京商工リサーチのまとめでは、倒産件数は2017年度で115件と過去最多を記録しました。中でも、訪問介護が47件、デイサービスなどの通所・短期入所介護が44件と目立っています。

    また、5人未満の小規模事業所が6割、開設5年以内の倒産が4割を占め、競争の激化の中で、資金力が弱かったりきちんとした事業計画を立てずに開業したりしたため淘汰されたとみられています。

    さらに、新設事業所数は減ってきており、地域間、事業所間の格差が広がっています。

     

    需要と政策の方向を見極める

    低賃金や人手不足は、ほとんどどこの事業所も抱える課題です。生き残るためには、開設までにきちんとしたマーケティングリサーチを行い、制約された中でも働きやすい職場環境や利用しやすいサービスメニューを整備するなどして差別化することが、事業者には求められます。

    国は、医療と福祉の連携強化を図っています。また、老人福祉では身体介護や生活援助が中心になるとみられますし、障害者の社会参加の動きはますます顕著になるでしょう。国が目指す方向や将来動向を見据えることも重要で、それに対応した良質なサービスの提供に努めれば、福祉事業における成功は決して難しくはないと思われます。

     

    需要と政策の方向を見極める

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